電話の発信者番号は偽装できるのか?~特殊詐欺の影に潜む技術の実態~
近年、特殊詐欺やオレオレ詐欺の手口が巧妙化し、被害が後を絶ちません。その中でも特に問題視されているのが、「発信者番号の偽装」です。見覚えのある番号や、公的機関、銀行などを装った番号からの着信に油断し、詐欺に巻き込まれてしまうケースが増えています。
では、そもそも発信者番号とは何か?そして、その番号は本当に「偽装」できるものなのでしょうか?本記事では、技術的な仕組みと実例、さらに今後の見通しや対策まで、わかりやすく解説します。
発信者番号とは?
電話をかけると、着信側の端末に表示される番号、これが「発信者番号(Caller ID)」です。通常、携帯電話や固定電話から発信すると、その回線に紐づけられた番号が相手に通知されます。
これは通信事業者のネットワークで管理されており、正規のルートを通った発信であれば、発信者番号は変更できないようになっています。しかし、IP電話や一部のクラウド電話サービス、さらには海外の通信網を経由することで、この番号を“偽装”することが可能になってしまうのです。
発信者番号の偽装は可能なのか?
結論から言えば、「技術的には可能」であり、しかもそれは極めて簡単に行える場合もあります。以下に、主な偽装手段を紹介します。
1. VoIP(インターネット電話)を悪用する手口
IP電話(VoIP:Voice over IP)は、インターネットを経由して音声通話を行う技術です。日本では「050」で始まる番号などが該当しますが、世界的にはSIP(Session Initiation Protocol)と呼ばれる技術が標準です。
SIPの仕様上、発信者番号(Caller ID)はユーザーが自由に設定できる部分があり、適切な制御がなければ“なりすまし”が可能です。つまり、実際の番号とは異なる電話番号を入力することで、あたかもその番号から発信されたように見せることができてしまいます。
2. 海外の中継業者を利用する
特殊詐欺グループの多くは、海外の中継サーバや通信業者を経由して電話をかけてきます。中継の過程で発信者番号を書き換えることができるため、日本の警察署や市役所、銀行の番号を装って発信することも可能になります。
この手口では、受信側には実在の公的機関の番号が表示されるため、非常に信ぴょう性が高く、被害者が騙されやすくなります。
3. クラウド電話サービスの不正利用
正規のクラウド電話サービスでも、ビジネス用途で任意の発信者番号(代表番号など)を設定できる機能があります。これを悪用すれば、合法的な仕組みの中でも偽装が可能となります。
もちろん、正規の利用者は審査を受けた上で利用するため問題ありませんが、海外の無審査サービスや匿名サービスを使えば悪用のリスクは高まります。
なぜ規制が難しいのか?
発信者番号偽装の多くは、国内の通信網を経由せず、海外経由で行われます。そのため、日本の通信事業者や総務省の規制の枠外で行われており、技術的に防ぐことが困難なのが現状です。
また、VoIPの技術自体は正当な用途も多く、インターネットの自由性を前提としたプロトコル設計になっているため、全面的な規制は実質不可能に近いとされています。
今後も偽装は続くのか?
残念ながら、技術的な仕組みが変わらない限り、発信者番号偽装は今後も続くと見られています。AIによる自動音声詐欺(ボイスフィッシング)なども登場し、被害の形態はさらに巧妙化しています。
特に高齢者層はスマートフォンやインターネットに不慣れなこともあり、「番号が表示されているから安心」という心理を突かれやすいのが現実です。
対策はあるのか?
発信者番号の偽装を完全に防ぐことは困難ですが、以下のような対策が有効です。
1. キャリアによる不審電話のフィルタリングサービス
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどのキャリアでは、迷惑電話をブロックするサービスを提供しています。こうしたサービスの利用は非常に有効です。
2. コールバックによる本人確認
知らない番号や怪しい番号から着信があった場合は、そのまま対応せず、一度切ってから「自分で調べた正規の番号」にかけ直す習慣をつけることが重要です。
3. 高齢者への啓発活動
家族や地域社会が連携し、高齢者に対して定期的に注意喚起を行うことが被害防止につながります。特に、「役所や警察が電話でお金の話をすることはない」という意識付けが大切です。
4. 国際的な規制の強化
今後は、国際間での通信規格の見直しや、発信者番号の認証技術(STIR/SHAKENなど)の導入が期待されています。これにより、偽装の難易度が上がると見られています。
まとめ
電話の発信者番号は、技術的に「偽装可能」であり、その仕組みを悪用した詐欺が横行しています。VoIPの自由性や海外通信の匿名性が背景にある以上、完全な防止は難しいのが現実ですが、個人レベルでも対策を講じることで被害を未然に防ぐことは可能です。
「番号が正しそうだから大丈夫」とは限らない時代。常に疑問を持ち、冷静な対応を心がけましょう。