病院ネットワークにおける「通信ポリシー」とは?その重要性と具体例を解説
近年、病院や介護施設などの医療・福祉現場でも、ICTの導入が急速に進んでいます。電子カルテやPACS、ナースコールシステム、見守りセンサー、介護記録アプリ、オンライン診療、Wi-Fiによる職員のスマートフォン運用など、多くの機器やサービスがネットワーク上で動作しています。
こうした中で非常に重要になるのが「通信ポリシー」の設計と管理です。病院側で策定される「通信ポリシー」とは、ネットワーク上でどのような通信を許可し、どのような通信を禁止するかを定めたルールです。今回は、その「通信ポリシー」とは何か、どんな内容が含まれているのかをわかりやすく解説していきます。
通信ポリシーとは?
通信ポリシーとは、組織のネットワーク上での通信の制御ルールです。セキュリティ確保、業務の効率化、トラブルの未然防止を目的として、以下のような観点から通信の制限・許可を行います。
- 「誰が(ユーザー・端末)」
- 「いつ(時間帯)」
- 「どこから(IPアドレス・セグメント)」
- 「どこへ(宛先IP・ドメイン)」
- 「何を(プロトコル・ポート)」
- 「どのように(通信の暗号化・トンネリング)」
たとえば、「外部のSNSサービス(Instagramなど)へのアクセスを禁止する」「業務端末からしか電子カルテへアクセスできないようにする」といったルールも通信ポリシーの一つです。
病院ネットワークでの通信ポリシーの具体例
以下に、実際の医療現場でよく見られる通信ポリシーの具体例を挙げます。
1. インターネットアクセス制限
病院のネットワークには、「医療情報系ネットワーク(電子カルテなど)」「一般業務系ネットワーク(職員用PCなど)」「患者・来訪者用ネットワーク(Wi-Fi)」といった複数のセグメントが存在することが多く、それぞれに対して異なる通信ポリシーが設定されます。
例:
- 電子カルテ用端末からはインターネット接続を禁止
- 患者用Wi-Fiはポート80(HTTP)、443(HTTPS)のみ許可し、動画ストリーミングは帯域制限
- 外部のクラウドサービスへの接続は、許可されたドメインのみに制限
2. ポート制限(プロトコル制御)
セキュリティ上、不要な通信ポートを閉じることも重要です。
例:
- インターネットへはHTTP(80)、HTTPS(443)のみ許可
- ファイル共有(SMB 445番)やリモート接続(RDP 3389番)などは内部ネットワークのみ許可
- SSHやTELNETなどの管理系ポートは特定端末からのみ接続許可
3. デバイスごとの通信制限(MACアドレス・IP管理)
特定の端末にのみ特定の通信を許可するようなポリシーです。
例:
- 電子カルテの閲覧は、登録済み端末のIPまたはMACアドレスからのみ許可
- モバイル端末はネットワークアクセスに制限(VLANやACLで制御)
4. 外部送信制限(情報漏えい対策)
病院では個人情報や診療情報を取り扱っているため、外部送信についても厳しい制限が設けられます。
例:
- USBメモリなど外部記憶装置の使用禁止
- GmailやDropboxなどへのアクセスを禁止
- 院外のIPカメラや録画サーバーへの映像送信をブロック
通信ポリシーがないと何が起きるか?
通信ポリシーが適切に整備されていないと、次のようなリスクがあります。
- 情報漏えいのリスク:誰でも自由に外部に接続できる状態では、機密情報が漏れる恐れがあります。
- マルウェア感染のリスク:不用意にアクセスしたサイトや添付ファイルからウイルス感染し、全院のシステム停止に至る可能性も。
- 帯域逼迫:動画サイトやSNSへの大量アクセスにより、業務用の通信速度が低下。
- トラブル発生時の特定が困難:ログが取れていない、通信ルールが曖昧だと、障害時の切り分けが難航します。
ポリシーは「ルール」だけでなく「文化」
通信ポリシーは技術的な設定だけでなく、運用ルール・職員教育とも密接に関わります。たとえば、「個人スマホを業務Wi-Fiに接続しない」「不審なメールは開かない」「外部クラウドサービスは使わない」といった利用者側の行動も含めて、ポリシーを整えていく必要があります。
まとめ
病院ネットワークにおける通信ポリシーは、安全かつ安定した運用のために欠かせないものです。導入時やネットワーク再構築時には、「どの通信を許可・制限するか」を関係者と協議し、機器設定や運用ルールに反映させることが大切です。
ネットワーク業者に調査や工事を依頼する際にも、「どんな通信ポリシーがあるのか」「どこまで許可されているのか」を事前に整理しておくことで、円滑な導入やトラブル防止に繋がります。