【セキュリティ講座⑧】インシデント発生時に中小企業が取るべき初動対応
はじめに
どれだけセキュリティ対策を強化していても、「絶対に攻撃を受けない」わけではありません。マルウェア感染、ランサムウェア、内部不正、情報漏えい――これらは大企業だけでなく、中小企業でも頻繁に発生しています。
特に中小企業では、インシデントが発生した際の 初動対応 が遅れることで被害が拡大し、事業継続に深刻な影響を与えるケースが少なくありません。
今回は、中小企業が現実的に取るべき「初動対応」のポイントを整理します。
初動対応の重要性
サイバー攻撃は「感染直後」よりも、その後の展開(情報流出、横展開、暗号化)で被害が大きくなります。
初動が遅れると
→ ランサムウェアにより社内すべてのサーバーが暗号化される
→ 顧客情報が外部に送信され、信用失墜につながる
初動が早ければ
→ 感染端末を隔離し、被害を最小限に抑えられる
→ 証拠を確保し、原因調査や再発防止につなげられる
「何を最初にやるか」で結果は大きく変わるのです。
中小企業が直面する現実的な課題
セキュリティ専任担当者がいない
運用マニュアルが整備されていない
インシデント対応の経験がほとんどない
「誰に連絡するか」が社内で共有されていない
こうした状況を前提に、誰でも取れる現実的な初動対応が求められます。
初動対応の流れ(最低限のステップ)
ステップ1:発見・通報
社員が「不審なメールを開いた」「端末の動作が異常」などを感じたら、すぐに報告できる体制を用意
「迷ったら報告する」文化づくりが重要
ステップ2:影響範囲を限定(端末の隔離)
ネットワークケーブルを抜く、Wi-Fiをオフにするなど、通信を遮断
電源を落とすかどうかは状況次第(証拠保全を優先する場合もある)
ステップ3:初期対応チームへの連絡
IT担当者、上長、外部の保守ベンダー、セキュリティサービス提供者へ連絡
「誰に最初に電話するか」を社内ルールとして明確化しておく
ステップ4:証拠の保全
ログやメール、画面キャプチャを残す
「再インストールですぐ復旧」では原因究明ができず、再発防止につながらない
ステップ5:社内外への連絡準備
被害が顧客や取引先に及ぶ場合は、早期に連絡・説明が必要
ただし、事実確認前に過度な情報を流すと混乱を招くため注意
やってはいけないNG対応
自己判断でウイルス対策ソフトを実行し続ける
→ 感染の痕跡を消してしまい、調査できなくなることがある
被害を隠す
→ 発覚が遅れて被害拡大、取引先からの信用喪失につながる
誰にも報告せず放置する
→ 社員が異常を見過ごすことで被害が拡大する典型例
事前に準備すべきこと
インシデント対応は「準備がすべて」といっても過言ではありません。
連絡体制の整備
→ 「発見したら誰に報告するのか」を一覧にしておく
初動マニュアルの作成
→ 端末隔離の方法、ログの残し方などを図解付きで簡潔に
外部ベンダーとの契約確認
→ 緊急時に駆けつけやリモート対応が可能かどうか事前確認
訓練・リハーサル
→ 年に1回でも「想定演習」を行うことで、いざという時に慌てない
まとめ
インシデントは「発生するかどうか」ではなく「いつ発生するか」の問題です。
特に中小企業はリソースが限られているからこそ、初動対応を仕組み化しておくことが何より重要です。
発見したら迷わず報告
まずは感染端末を隔離
証拠を残して外部ベンダーに連絡
社内外への説明は事実を確認したうえで冷静に
こうした基本を徹底することで、被害を最小限に抑え、事業継続と信用を守ることができます。
次回(第9回)は、「セキュリティ人材が不足する中で、中小企業が選ぶべき外部パートナー」について解説します。




