【セキュリティ講座⑥】ゼロトラストセキュリティとは? 基本概念と導入のポイント
はじめに
これまでの連載では、エンドポイント対策やEDR/XDR、SOCやMDRといった「防御と運用」について解説してきました。今回取り上げるのは、近年多くの企業や組織で注目されている「ゼロトラストセキュリティ」です。従来の境界型防御が限界を迎えつつある今、ゼロトラストは単なる流行語ではなく、セキュリティ戦略の大きな転換点を示しています。
従来型「境界防御モデル」の限界
従来は「社内ネットワーク=安全」「社外=危険」という前提で、ファイアウォールなどで境界を守る方法が主流でした。
しかし、以下のような要因でその前提が崩れています。
・クラウドサービスの普及により、データが社外に分散
・テレワークの普及で社外からのアクセスが常態化
・サプライチェーン攻撃など、内部からの侵入リスク増加
・ID・パスワード漏えいによる不正アクセス
結果として、「境界の内側=安全」という考え方では防ぎきれない状況になっています。
ゼロトラストセキュリティとは?
ゼロトラスト(Zero Trust)とは、「何も信用しない(Never Trust)、常に検証する(Always Verify)」という考え方を基盤とするセキュリティモデルです。
具体的なポイントは以下の通りです。
ユーザーやデバイスを常に認証・認可する
→ 社内・社外の区別なく、すべてのアクセスを検証
最小権限の原則
→ 必要最低限のアクセス権だけを付与
継続的な監視と可視化
→ アクセス後も不審な挙動を検知・制御
データ保護を中心に考える
→ データがどこにあっても、暗号化やアクセス制御で守る
ゼロトラストを支える要素技術
ゼロトラストを実現するためには、いくつかの技術や仕組みが組み合わされます。代表的なものを紹介します。
多要素認証(MFA)
→ パスワードだけでなく、生体認証やワンタイムコードで本人確認
ID・アクセス管理(IAM)
→ ユーザーの権限を一元的に管理し、最小権限を徹底
エンドポイントセキュリティ(EDR/MDM)
→ 利用端末の安全性を検証し、危険な端末からのアクセスを遮断
セキュアWebゲートウェイ(SWG)、ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)
→ クラウドや社内リソースへの安全な接続を実現
SIEM/SOAR
→ ログを収集・相関分析し、脅威を早期に検知
導入のステップと現実的な課題
ゼロトラストは理想論に聞こえるかもしれませんが、いきなり全てを入れ替える必要はありません。段階的な導入が現実的です。
導入ステップの例
1-ユーザー認証の強化(MFAの導入)
2-クラウドサービスへのアクセス制御(ZTNAやCASBの利用)
3-エンドポイントのセキュリティ強化(EDRやMDM)
4-ログの収集と相関分析による可視化
5-全体的なゼロトラストアーキテクチャの最適化
よくある課題
・コスト増加:複数製品やサービスを導入する必要がある
・運用負担:監視体制やセキュリティ人材の確保が必要
・社内理解の不足:ユーザーにとって利便性が下がると反発を受けやすい
ゼロトラスト導入の効果
課題はあるものの、ゼロトラストの導入には大きな効果があります。
・サイバー攻撃による被害の最小化
・情報漏えいリスクの低減
・テレワークやクラウド利用に強い柔軟なセキュリティ体制
・コンプライアンスや監査対応の強化
「全てを信用しない」という厳しい思想に基づきつつも、企業のIT活用を安全に推進する基盤となります。
まとめ
ゼロトラストは、従来型の境界防御では防げない攻撃に対応するために生まれた新しいセキュリティモデルです。ポイントは「常に検証する」姿勢と「最小権限の徹底」。
導入には時間とコストがかかりますが、テレワークやクラウド活用が進む今、避けては通れないテーマです。小さなステップからでも導入を始めることが、将来的なセキュリティ強化につながります。
次回(第7回)は、「中小企業におけるゼロトラストの現実的アプローチ」について解説していきます。




