サイバーセキュリティ2025.10.29(更新日:2025.09.12)

【セキュリティ講座⑤】セキュリティ運用のステップと企業が陥りやすい落とし穴

はじめに

これまでのセキュリティ講座では、エンドポイント対策の基本からEDR/XDR、さらにSOCやMDRといった運用体制について解説してきました。
今回のテーマは、実際にセキュリティを「運用」していく際の具体的なステップと、多くの企業がつまずきやすい“落とし穴”です。

「EDR/XDRを導入したから安心」「SOCやMDRに委託したから大丈夫」——そう思ってしまうのは危険です。セキュリティは製品を入れて終わりではなく、運用の積み重ねこそが鍵になります。

セキュリティ運用の基本ステップ

企業がセキュリティを運用するには、次の4つのステップが基本となります。

(1) 可視化(現状把握)

まずは「どこに、どのような資産があるのか」を正確に把握することが出発点です。

・PCやサーバーの台数、OSの種類

・社員が利用するクラウドサービスやモバイル端末

・ネットワーク機器、VPN、Wi-Fi環境

(2) 監視(異常の検知)

EDR/XDRやSOC/MDRを活用し、日々のログを監視します。

・不審な通信

・社員のアカウント不正利用

・ランサムウェアの前兆挙動

重要なのは「検知した後にどう動くか」を明確にしておくことです。

(3) 対応(インシデントレスポンス)

検知された脅威に対して、迅速に対応します。

・感染端末の隔離

・攻撃経路の遮断

・被害範囲の特定

・復旧に向けた手順の実行

初動対応が遅れると被害が拡大するため、手順を事前に決めておくことが不可欠です。

(4) 改善(再発防止)

インシデント対応のあとは必ず振り返りを行い、原因を分析します。

・なぜ攻撃を許してしまったのか?

・対応に時間がかかった理由は?

・社内のルールや教育に不足はなかったか?

改善を繰り返すことで、運用体制は少しずつ成熟していきます。

企業が陥りやすい“落とし穴”

セキュリティ運用においては、多くの企業が次のような課題につまずきます。

(1) 製品を入れて「安心してしまう」

高機能なEDR/XDRを導入しても、運用しなければ宝の持ち腐れです。アラートを放置したり、検知ルールを更新しないままでは、攻撃を見逃す可能性があります。

(2) アラート疲れ(Alert Fatigue)

毎日数十件、数百件のアラートが届くと、担当者は「またか」と感じて確認を怠りがちになります。結果として本当に危険なアラートを見落とすリスクがあります。

(3) 権限や責任の曖昧さ

インシデントが発生したとき、「誰が最初に対応するのか」「経営層に報告するのは誰か」が決まっていないと、対応が遅れます。

(4) 教育不足

システム担当者だけでなく、社員全員のセキュリティ意識も重要です。フィッシングメールの見分け方を知らなければ、いくら高度な仕組みを導入しても突破されてしまいます。

(5) 監査・法令対応の軽視

個人情報や機密データを扱う企業では、法令やガイドラインに基づく監査対応が必要です。ログを保存していなかった、証跡を提示できないといったケースは大きな問題につながります。

落とし穴を避けるための実践ポイント

では、これらの課題を防ぐために企業は何を意識すべきでしょうか。

最初から完璧を目指さない

→ 小さく始め、徐々に運用を成熟させることが現実的です。

役割と責任を明確化する

→ 「誰が検知を見るのか」「誰が対応を判断するのか」を文書化しておく。

外部リソースを活用する

→ 自社で人材を抱えられない場合は、MDRやSOCサービスを活用して不足を補う。

社員教育を継続的に行う

→ フィッシング訓練やセキュリティ研修を定期的に実施し、意識を高める。

定期的なレビューと改善

→ インシデントがなくても、年に数回は模擬訓練やルールの見直しを行う。

まとめ

セキュリティ運用は「製品を導入すれば終わり」ではなく、可視化 → 監視 → 対応 → 改善 のサイクルを継続的に回すことが重要です。

落とし穴に共通するのは、運用を「人任せ」「製品任せ」にしてしまうこと。体制や教育、改善を組み合わせることで、初めてセキュリティは実効性を持ちます。

次回(第6回)は、こうした運用をさらに効率化する仕組みとして注目される 「ゼロトラストセキュリティ」 について取り上げます。

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