【セキュリティ講座⑤】セキュリティ運用のステップと企業が陥りやすい落とし穴
はじめに
これまでのセキュリティ講座では、エンドポイント対策の基本からEDR/XDR、さらにSOCやMDRといった運用体制について解説してきました。
今回のテーマは、実際にセキュリティを「運用」していく際の具体的なステップと、多くの企業がつまずきやすい“落とし穴”です。
「EDR/XDRを導入したから安心」「SOCやMDRに委託したから大丈夫」——そう思ってしまうのは危険です。セキュリティは製品を入れて終わりではなく、運用の積み重ねこそが鍵になります。
セキュリティ運用の基本ステップ
企業がセキュリティを運用するには、次の4つのステップが基本となります。
(1) 可視化(現状把握)
まずは「どこに、どのような資産があるのか」を正確に把握することが出発点です。
・PCやサーバーの台数、OSの種類
・社員が利用するクラウドサービスやモバイル端末
・ネットワーク機器、VPN、Wi-Fi環境
(2) 監視(異常の検知)
EDR/XDRやSOC/MDRを活用し、日々のログを監視します。
・不審な通信
・社員のアカウント不正利用
・ランサムウェアの前兆挙動
重要なのは「検知した後にどう動くか」を明確にしておくことです。
(3) 対応(インシデントレスポンス)
検知された脅威に対して、迅速に対応します。
・感染端末の隔離
・攻撃経路の遮断
・被害範囲の特定
・復旧に向けた手順の実行
初動対応が遅れると被害が拡大するため、手順を事前に決めておくことが不可欠です。
(4) 改善(再発防止)
インシデント対応のあとは必ず振り返りを行い、原因を分析します。
・なぜ攻撃を許してしまったのか?
・対応に時間がかかった理由は?
・社内のルールや教育に不足はなかったか?
改善を繰り返すことで、運用体制は少しずつ成熟していきます。
企業が陥りやすい“落とし穴”
セキュリティ運用においては、多くの企業が次のような課題につまずきます。
(1) 製品を入れて「安心してしまう」
高機能なEDR/XDRを導入しても、運用しなければ宝の持ち腐れです。アラートを放置したり、検知ルールを更新しないままでは、攻撃を見逃す可能性があります。
(2) アラート疲れ(Alert Fatigue)
毎日数十件、数百件のアラートが届くと、担当者は「またか」と感じて確認を怠りがちになります。結果として本当に危険なアラートを見落とすリスクがあります。
(3) 権限や責任の曖昧さ
インシデントが発生したとき、「誰が最初に対応するのか」「経営層に報告するのは誰か」が決まっていないと、対応が遅れます。
(4) 教育不足
システム担当者だけでなく、社員全員のセキュリティ意識も重要です。フィッシングメールの見分け方を知らなければ、いくら高度な仕組みを導入しても突破されてしまいます。
(5) 監査・法令対応の軽視
個人情報や機密データを扱う企業では、法令やガイドラインに基づく監査対応が必要です。ログを保存していなかった、証跡を提示できないといったケースは大きな問題につながります。
落とし穴を避けるための実践ポイント
では、これらの課題を防ぐために企業は何を意識すべきでしょうか。
最初から完璧を目指さない
→ 小さく始め、徐々に運用を成熟させることが現実的です。
役割と責任を明確化する
→ 「誰が検知を見るのか」「誰が対応を判断するのか」を文書化しておく。
外部リソースを活用する
→ 自社で人材を抱えられない場合は、MDRやSOCサービスを活用して不足を補う。
社員教育を継続的に行う
→ フィッシング訓練やセキュリティ研修を定期的に実施し、意識を高める。
定期的なレビューと改善
→ インシデントがなくても、年に数回は模擬訓練やルールの見直しを行う。
まとめ
セキュリティ運用は「製品を導入すれば終わり」ではなく、可視化 → 監視 → 対応 → 改善 のサイクルを継続的に回すことが重要です。
落とし穴に共通するのは、運用を「人任せ」「製品任せ」にしてしまうこと。体制や教育、改善を組み合わせることで、初めてセキュリティは実効性を持ちます。
次回(第6回)は、こうした運用をさらに効率化する仕組みとして注目される 「ゼロトラストセキュリティ」 について取り上げます。





