【セキュリティ講座③】EDR/XDRとは? 従来のウイルス対策との違いと導入のポイント
はじめに
これまでのセキュリティ講座では、「Microsoft Defenderだけで十分か?」(第1回)、「エンドポイントセキュリティ製品を選ぶ視点」(第2回)について取り上げました。今回はその続編として、近年注目を集める EDR(Endpoint Detection & Response) や XDR(Extended Detection & Response) について、従来型のウイルス対策との違いや導入のポイントを解説します。
従来型アンチウイルスの限界
従来のウイルス対策ソフトは、シグネチャ(既知のウイルスの特徴ファイル)をもとに不正プログラムを検知・削除する仕組みが中心でした。これにより多くのマルウェアを防御できましたが、近年のサイバー攻撃はより巧妙化しています。
・ファイルレス攻撃:不正なプログラムをファイルとして保存せず、OSの正規機能を悪用する
・ゼロデイ攻撃:未知の脆弱性を突くため、シグネチャが存在しない段階で感染する
・標的型攻撃:特定の企業を狙い、メール・クラウド・VPNなど複数の経路を組み合わせる
つまり「ウイルスを見つけて削除する」だけでは不十分であり、侵入されることを前提に、挙動を監視し、被害を最小限に抑える仕組みが求められるようになりました。
EDR(Endpoint Detection & Response)とは
EDRは、PCやサーバーといったエンドポイントの挙動を常に監視し、異常があれば検知・分析・対応する仕組みです。
主な機能
・振る舞い検知:未知のマルウェアでも、不自然なプロセス実行や通信を検出
・端末隔離:感染したPCを即座にネットワークから切り離し、被害拡大を防止
・攻撃経路の可視化:どのメールから侵入したか、どのサーバーにアクセスしたかを追跡
メリット
・ゼロデイ攻撃やファイルレス攻撃への対応力が高い
・感染後の調査や復旧に役立つログが蓄積される
・インシデント対応を迅速に行える
課題
・アラートが大量に発生し、運用担当者の負担が大きい
・適切に運用できなければ“検知しただけで終わる”可能性がある
XDR(Extended Detection & Response)とは
EDRをさらに拡張した仕組みがXDRです。EDRが端末単体にフォーカスするのに対し、XDRはネットワーク、クラウド、メール、ID管理など複数の領域を統合的に監視します。
メリット
・さまざまなセキュリティ製品のログを集約し、相関分析が可能
・個別では見逃される脅威も、全体像を把握することで検知できる
・インシデント対応を一元的に管理できる
課題
・導入コストが比較的高い
・運用には専門知識やSOC(セキュリティ運用センター)の連携が必要
・統合基盤の整備に時間がかかる
導入を検討する際のポイント
EDR/XDRの導入を考える際は、以下の観点が重要です。
規模とリソースに合わせる
・中小企業:クラウド型EDRで運用負担を軽減
・大企業:XDR+SOCで広範囲を統合的に監視
インシデント対応体制
・自社に専門人材がいない場合は、MDR(Managed Detection & Response)など外部委託も検討
既存環境との組み合わせ
・Microsoft Defender for Endpointと統合運用するケースも多い
活用イメージ
例えば、ある企業でランサムウェアが仕掛けられたケースを考えてみましょう。
1-攻撃者がフィッシングメールを送信
2-社員が添付ファイルを開き、マルウェアが動作
3-従来のアンチウイルスでは検知できなかったが、EDRが不審な暗号化処理を検出
4-端末を自動隔離し、SOCが調査
5-攻撃経路を特定し、他の端末の感染有無を確認
6-早期に封じ込め、業務停止を最小限に抑制
このようにEDR/XDRは「被害をゼロにする」のではなく、「被害を最小限に抑え、迅速に復旧する」点で大きな価値があります。
まとめ
従来のアンチウイルスが「侵入を防ぐ」ことに重点を置いていたのに対し、EDRやXDRは「侵入されることを前提に、検知・対応・復旧までを行う」仕組みです。
企業にとっては、どの製品を選ぶか以上に、自社の体制に合った運用方法をどう確立するかが鍵となります。
次回(第4回)は、EDR/XDRを支える SOC(セキュリティ運用センター)やMDR(運用委託サービス) について、実際の導入・運用の現実を解説します。