無線アクセスポイントの電波を弱める・乱す意外な原因とは?〜介護施設の現場から学ぶ対策〜
近年、介護施設においてもICT化が進み、Wi-Fi環境の重要性がますます高まっています。
タブレットでの記録入力、ナースコール連携のスマートフォン、居室内カメラなど、さまざまな機器が無線通信に依存しています。
しかし、現場では「特定の部屋だけ電波が弱い」「時間帯によってつながりにくい」など、無線に関するトラブルが多く報告されています。
今回は、無線アクセスポイント(AP)の電波を弱くしたり、通信を不安定にしたりする原因を整理し、特に介護施設でよくある事例に注目しながら、対策についてご紹介します。
電波を乱す・弱くする主な要因とは?
無線LANの電波は、目に見えない「空中の道路」のようなものです。そこを多くの電波が行き交い、干渉や遮断が発生することがあります。以下に、主な原因を分類してみます。
- 機械や電化製品による干渉(電子レンジ・Bluetooth機器など)
電子レンジ(2.4GHz帯を使用)
電波を発生させる代表例。特に2.4GHz帯のWi-Fiと同じ周波数を使うため、強力な干渉源となります。
→ 職員休憩室やスタッフキッチン付近で不安定になりがち。
Bluetooth機器
Bluetoothイヤホン、ワイヤレススピーカー、活動量計なども2.4GHz帯を使用。
→ 数が多いとノイズ源となり、電波品質が悪化します。
コードレス電話・無線インターホン
一部の旧型機器がWi-Fiと近い周波数帯を使用している場合があります。
- 建物構造・材質による電波減衰
鉄筋コンクリート・ALCパネルの壁
電波が通りづらい素材の代表格。特に梁や耐火壁があると、急激に減衰します。
金属製家具やロッカー、配電盤などの金属障害物
電波を吸収・反射するため、背後の部屋や影になった空間は弱くなります。
ガラス(網入り)や鏡、ステンレス製品
意外に見落とされがちですが、反射や歪みを起こす要因です。
- 設備・配線の問題
LANケーブルの品質や長さ
長すぎるケーブルやカテゴリの低いケーブル(例:Cat5)は、電源供給(PoE)や通信の安定性に影響。
アクセスポイントの設置場所
天井裏やロッカー内など、目に見えない場所に設置すると、電波が遮断されて届きにくくなります。
複数のAPの電波が重複(チャンネル干渉)
設置数が多くなるほど、意図しない電波の重なりが発生します。2.4GHzでは特に要注意です。
介護施設で実際によくある電波トラブル例
現場での調査や導入支援の経験から、介護施設ならではの事例をご紹介します。
居室の天井裏に鉄板入りの断熱材 → 電波が届かない
天井裏に設置したAPが、実際には断熱材で電波が遮られていた。居室内では-75dBm以下となり、ナースコール端末が切断。
● 廊下に設置された電子レンジの稼働時だけ通信断
利用者用の食堂横にある電子レンジが稼働すると、周辺のWi-Fi通信が一時的に極端に不安定に。ナース端末の呼び出しが届かないことも。
● 金属ロッカーの裏にAPを設置 → 死角エリアが発生
廊下美観の観点からロッカー裏にAPを設置したが、反対側の部屋には電波が回り込まず。
● APが多すぎて逆に干渉 → 自動でチャンネルが変わり、通信切断
APを増設した結果、2.4GHz帯のチャンネルが重複。機器がAPを頻繁に切り替える(ローミング)ことで、接続が安定せず。
トラブルを防ぐための対策とポイント
- 設計段階でのサイトサーベイ(事前電波調査)
施設の構造・材質・利用機器を考慮して、最適なAPの位置と台数を決定。 - 電子レンジ付近では5GHz帯を使用するか、APを離す
2.4GHzは避ける、もしくは強制的に5GHz帯へ誘導する設定(バンドステアリング)を活用。 - 機器を最新のものに更新(Wi-Fi 6対応など)
新しい規格の方が干渉に強く、接続の安定性が高いです。 - APはなるべくオープンな天井面に設置し、隠さない
装飾や家具の背後、密閉空間に入れるのは避ける。 - チャンネル設定を手動で行う、または管理システムを導入
AP同士の干渉を防ぐには、適切なチャンネルプランが必要です。
まとめ
介護施設におけるWi-Fi構築は、単なる「設置して終わり」ではありません。
環境に合わせた設計、電波干渉の要因の把握、適切な機器選定と設置があってこそ、安定した運用が実現します。
現場の特性を知り、実際に使う職員・利用者の視点に立って、「繋がるのが当たり前」なWi-Fi環境をつくっていきましょう。